世界の子育て・教育をのぞいてみよう! 第6回|スペイン・アメリカ・日本編
あと一つで、パズルが完成!
そう思った瞬間、最後のピースが合わない。
「あれ? これじゃない……」
子どもの眉間に、しわが寄ります。
「できない! もうやらない!」
さて、あなたなら何と声をかけますか?
「大丈夫、頑張ったね!」
「最後までやってみようよ」
それとも、ピースをはめてあげる?
どれも、つい口から出てきそうな言葉です。
でも、今回スペインの幼児教育法令とアメリカの心理学研究を調べてみると、意外なことが分かりました。
失敗を前向きに受け止めさせるために、いつでも「頑張ったね」と褒めればいい、というほど単純ではないのです。
さて、どういうことでしょう?

1. スペインの教育基準には「試行錯誤」が出てくる
スペインの2022年の幼児教育に関する国家基準を読んでいると、こんな言葉が登場します。
ensayo-error。
日本語では「試行錯誤」です。[1]
物を観察し、仮説を立て、実際に試し、確かめてみる。
その過程で、思ったとおりにいかなかったことも次の手がかりになります。
例えば、紙の橋を作って、その上に小さな車を乗せる遊び。
橋がたわんでしまったら、紙を折り直す。
支えを増やす。
「さっきより長く持った!」と気づく。
スペインの基準は、こうした観察、確認、質問、試行錯誤を、幼児の探究活動と結びつけています。
ただし、子どもに無理な失敗体験をさせる、という意味ではありません。
安心できる環境で、年齢や関心に合った挑戦を用意することも、同じ基準の重要な部分です。[1]
2. 失敗を褒める? それとも、工夫を見つける?
アメリカ心理学会(APA)の教育資料では、子どもを褒めるとき、頭のよさなど変わりにくい特徴を評価するよりも、努力や具体的な工夫に注目する「プロセスへの称賛」が紹介されています。[2]
「あなたは天才!」より、
「前と違う方法を試したね」
「難しいところを、よく考えたね」
そんな声かけです。
ここで大切なのは、何でも無条件に持ち上げることではありません。
子どもは案外、大人の表情に敏感です。
できなかったのに「すごい! 完璧!」と言われると、違和感を覚えることもあるでしょう。
結果を嘘で褒めず、実際に見えた工夫を言葉にする。
この違いは、小さそうで大きいと思います。
3. ところが、「成長する心」を教えれば成績が上がるとは限らない
ここで、少し意外な研究を紹介します。
アメリカを中心に広まった考え方に、growth mindset(成長可能性についての信念) があります。
能力は固定されたものではなく、学習や工夫によって変化しうる、という考え方です。
聞くだけでも前向きになれそうですよね。
ところが、その考え方を授業などで教える介入が、学力にどの程度影響するかを検討した2023年のメタ分析では、全体の効果が非常に小さく、研究の質や偏りを考慮すると確かな成績向上効果が見えにくいという結論が示されました。[3]
一方、別のメタ分析では、支援を特に必要とする集団や、適切に実施されたプログラムでは効果が見られる可能性も報告されています。[4]
研究者同士でも、効果の大きさや条件の解釈には議論があります。
つまり、「失敗は成長のもと」と唱えれば、誰でも成績が伸びるという魔法は確認されていないのです。
大切なのは、かけ声だけでなく、次に試せる方法や支援が実際にあることなのかもしれません。

4. 子どもが泣いたとき、すぐ作戦会議をしなくてもいい
パズルができなくて、悔し泣きしている子ども。
そんなときに、「どこが悪かったか考えよう!」と急に分析を始めたらどうでしょう。
本人にとっては、ちょっとつらいかもしれません。
まずは「悔しかったね」「難しかったね」と気持ちを受け止める。
落ち着いてから、続きをやるか、別の日にするか相談する。
この順序の方が自然な場合もあります。
スペインの幼児教育基準が、感情面に配慮した肯定的な学習経験や、安心できる環境を重視していることも忘れたくありません。[1]
失敗の価値を大人が熱心に説明するより、子どもにとって「もう一度やっても大丈夫」と思える雰囲気があること。
まずは、そこが出発点なのですね。
5. 「諦めない子」を育てる前に、見ておきたいこと
子どもが途中でやめたとします。
それは、必ずしも根気がないからとは限りません。
課題が難しすぎたのかもしれない。
眠かったのかもしれない。
何度も同じ方法を試して、疲れてしまったのかもしれない。
だから「最後までやり抜かせる」だけを目標にすると、子どもが出しているサインを見逃すことがあります。
失敗を学びにつなげるには、続けることだけでなく、課題を小さくすること、別の方法に変えること、大人に助けを求めることも選択肢に入れておきたいですね。
挑戦を続ける力には、立ち止まる判断も必要。
そんな見方もできると思います。
6. 大人が「失敗の後」に何をするかで、話は変わる
「失敗してもいいよ」と言われて、少し安心する子どもはいるでしょう。
でも、何度やってもできない課題を前に、その言葉だけを繰り返されたらどうでしょう。
「いいって言うけど、やっぱりできないよ!」
そう感じるかもしれません。
そんなとき大切なのは、励ましと一緒に、具体的な助けを用意することです。
パズルなら、角のピースを先に探してみる。
積み木なら、土台を広くしてみる。
工作なら、材料を変えてみる。
ただし、大人がすべて代わりに完成させてしまえば、子どもが試す部分がなくなってしまいます。
「ここだけ手伝うね」と決めて、次の一手を本人に渡す。
それも立派なサポートです。
アメリカの研究で、成長マインドセットへの介入の効果に議論があることは、むしろ重要な教訓になります。[3][4]
前向きな言葉があるだけではなく、前に進める条件が整っているか。
子どもの失敗を見るとき、大人が注目したいのはそこなのかもしれません。
7. 日本にもある、試して考え直す学び
文部科学省の幼稚園教育要領では、身近なものに関わり、発見を楽しみ、考えたり工夫したりすることが大切にされています。[5]
失敗しないように大人がすべて整えることが、日本の教育理念ではありません。
もちろん、実際の園や家庭の関わり方はさまざまです。
だから「アメリカは挑戦させる、日本は間違いを嫌う」といった単純な文化論には、慎重でありたいと思います。
今回調べたのは、アメリカの学術・専門資料、スペインの教育基準、日本の制度資料。
いずれも国民全員の性格を説明するものではありません。
それでも、遠く離れた国の資料が、「子どもが自分で試せる環境」というところで響き合っているのは面白い発見でした。
8. 明日から使える、「もう一回」の前の三つの言葉
では家庭で、どんな声かけができそうでしょう?
まずは 「悔しかったね」。
気持ちを受け止めることから始めます。
次に 「さっきと違うやり方、あるかな?」。
同じことを何度も繰り返すだけでなく、方法を探すための問いです。
そして 「ここだけ一緒にやろうか?」。
必要な援助を差し出す言葉です。
これらを全部使う必要はありません。
その子の状態に合う言葉を、一つ選べば十分です。
子どもがもう一度やり始めたら、しばらく静かに見守るのもよさそうです。

9. 「挑戦した証拠」は、成功の写真とは限らない
スマートフォンの写真フォルダを思い浮かべてみてください。
完成した工作、上手に描けた絵、初めてできたこと。
そんな記録は、きっとたくさんあります。
でも、作っている途中で考え込んだ表情や、何度も組み直した積み木の写真は、案外少ないかもしれません。
もちろん、子どもの失敗を面白がって撮る必要はありません。
ただ、本人が嫌がらず、記録を残したいと思う場面なら、「ここを作り直したんだよね」と後で振り返ることもできます。
できなかった日が、後から見れば「ここから始まった日」になることもあります。
だから、失敗の場面を何でも成長の物語に仕立てなくていいし、毎回学びに変えなくてもいい。
悔しいまま終わる日もあっていいのです。
次の日、子どもがふと「昨日の、もう一回やりたい」と言い出したとき。
その小さな変化を、一緒に喜べたら素敵です。
挑戦の価値は、成功した瞬間だけで決まるわけではない。
それを大人自身が忘れずにいることも、子どもへの大切なメッセージになるのではないでしょうか。
10. 失敗した日の終わり方にも、きっと意味がある
最初のパズルに戻ります。
結局、今日も最後の一つははまりませんでした。
でも、子どもが言います。
「また明日やる」
それで、十分な日もあると思います。
今日できなかったことを、明日もう一度やってみたい。
その気持ちが残っているなら、挑戦はまだ続いています。
失敗を前向きにするのは、褒め言葉だけではない。安心して、別の方法を試せる環境があること。
スペインとアメリカの資料を読み比べて、そんな答えに近づいた気がします。
「できた?」だけでなく、「次はどうしてみたい?」。
そんな問いを、そっと置いてみませんか。😊
次回予告 👕
「どっちの服を着たい?」から始まる、大きな学び。
次回はドイツとアメリカの資料から、子どもにどこまで選ばせるかを考えます。
この記事の調査資料・参考文献
[1] スペイン官報 BOE(2022年) Real Decreto 95/2022, Educación Infantil. スペイン語原文
[2] American Psychological Association(2015年) Using praise to enhance student resilience and learning outcomes. 英語原文
[3] Macnamara & Burgoyne(2023年) Do growth mindset interventions impact students’ academic achievement? 学術論文要旨
[4] Burnette et al.(2023年) A systematic review and meta-analysis of growth mindset interventions. 学術論文要旨
[5] 文部科学省 『平成29年改訂幼稚園教育要領・解説』 公式資料
※研究結果は特定の声かけの万能な効果を保証するものではありません。挿し絵・会話はイメージです。
企画・編集:株式会社フォーユアオール
本記事は公開資料をもとにした読み物です。参考資料は上記をご参照ください。

