世界の子育て・教育をのぞいてみよう! 第7回|ドイツ・アメリカ・日本編

朝のクローゼットの前。

「今日は何を着たい?」

そう聞いたら、子どもは迷いに迷って、なかなか決まりません。

「やっぱりピンク!」

と思ったら、次は青。

そして、ようやく決めた服は、今日の天気に合わない薄着……。

「もう、お母さんが決めるね!」

言いたくなる気持ち、よく分かります。😅

子どもに選ばせることは大切。

でも、何でも自由に選ばせればいいのでしょうか?

ドイツの幼児教育に登場する Partizipation(参加・意思決定への関わり) という言葉と、アメリカの幼児教育の考え方を調べてみました。

すると、子どもの自由と、大人が用意する枠組みは、意外にもセットで考えられていることが見えてきました。

どちらの服を着るか考える子どものイメージ
どちらの服を着るか考える子どものイメージ(記事内容をもとにしたイメージ)

1. ドイツの幼児教育にある「参加する」という考え方

ドイツの連邦政治教育センターbpbには、幼稚園での子どもの意思決定への参加を解説した資料があります。[1]

そこでは、子どもが何について、どの程度決定に関われるか、そしてその決定がどれくらい尊重されるかが問題になります。

大人が決めた案に「いいね」と言うだけで、子どもが本当に参加したことになるでしょうか。

逆に、まだ判断が難しいことをすべて子どもに任せるのも、適切とは限りません。

この間にある、ちょうどよい関わり方を探すことが大切なのです。

「参加」とは、会議に出ることだけではありません。

今日はどんな遊びをするか。

制作に何を使うか。

食事の場面でどう気持ちを伝えるか。

そんな小さな日常にも、子どもの意見が関わる余地があります。

2. 食卓にも「子どもの意見」がある

ドイツの連邦栄養センターBZfEの資料は、保育施設での食事や飲み物を題材に、子どもが話し合い、決定に関わることを紹介しています。[2]

自分の意見が尊重される経験は、社会的な力や、自分にも影響力があるという感覚につながると説明されています。

ただし、食物アレルギーや安全など、大人が責任を持つ必要のあることは別です。

「食べたくないと言ったら、毎日お菓子だけでもいいの?」

もちろん、そんな意味ではありません。

むしろ、子どもの声を聞きながら、大人が守るべき線引きも考えることが大事なのです。

これは家庭の食卓でも、少し参考になりそうですね。

3. アメリカの幼児教育も「自由だけ」ではない

アメリカの幼児教育専門団体NAEYCは、発達に適した教育実践(Developmentally Appropriate Practice)について資料を公開しています。

その中では、子どもが問題へ取り組む方法を選び、仮説を立て、解決を探る主体性が、深い学びに関係すると説明されています。[3]

ここでも自由な遊びと、大人が支える遊びの両方が大切にされています。

「さあ、自由に何でもやって!」と言われても、子どもが困ることはあります。

選択肢が多すぎたり、必要な材料がなかったり、何をしてよいか分からなかったり。

だから大人には、子どもが試せる環境を作る役割があります。

アメリカは州や地域、施設によって教育の実践が異なります。この資料をアメリカ全国の共通ルールとして扱わないことにも注意しましょう。

二択の道と身近なものを表す挿し絵
二択の道と身近なものを表す挿し絵(記事内容をもとにしたイメージ)

4. 「選ぶ」と「決めさせる」は、同じじゃない

ここで、服選びの話に戻ってみます。

「好きな服を何でも選んでいいよ」

と伝えたのに、大人があとから「それはダメ!」と却下したら、子どもは戸惑うかもしれません。

それなら最初に、気温に合う服を2着用意して、こう聞いてみる。

「今日はこの二つなら、どっちがいい?」

選択肢は小さくなりますが、子どもには確かに決められる部分があります。

これは、子どもを操るための裏技ではありません。

安全や生活の条件を大人が整え、その中で子どもの意思を本当に尊重する。

ここが大切です。

もし選んだ結果を毎回大人が覆してしまうなら、その選択は形だけになってしまいます。

5. みんなで決める場面は、もっと難しい

家族で休日の予定を決めるとき。

お兄ちゃんは公園。

妹は図書館。

お母さんは買い物を済ませたい。

さて、どうしましょう。

全員の希望を同時にかなえるのは難しいですよね。

ドイツの幼児教育における参加の議論では、意見を出せることに加えて、どのような方法で決めるか、合意した約束が守られるかといった点も重要です。[1][4]

家庭でも、「今日は公園、来週は図書館にしよう」と順番を決めたり、「午前は買い物、午後は一時間遊ぼう」と折り合いを探したりできます。

自分の希望が全部通らなくても、意見を聞いてもらえたことは残る。

その経験が、家族の中での小さな民主主義の練習になるのかもしれません。

6. 子どもが選んだことには、大人も責任がある

子どもに選んでもらうとき、「選択肢を渡したら、あとは子どもの責任」と思ってしまうことはないでしょうか。

でも、幼い子どもには、まだ先の結果を予想しにくいこともあります。

例えば、冬の日に半袖を選びたい。

寝る直前に、映画をもう一本見たい。

そんな希望を頭ごなしに否定しなくても、健康や安全に関わる線引きは大人が考える必要があります。

ドイツの子どもの参加に関する専門資料では、意思決定に参加できることに加えて、どの範囲まで参加するかを明確にする重要性が語られています。[1]

大人は子どもの意見を聞き、理由を説明し、必要なら代案を出す。

「今日は風邪をひきそうだから上着を着よう。でも、赤と青は選んでいいよ」

そんな対話です。

子どもの決定を尊重することは、子どもに全部の責任を背負わせることではない。

安心できる範囲を作る大人の責任も、同じくらい大切なのです。

7. 日本の「主体性」と、どこがつながる?

日本の幼児教育でも、子どもが自分で考え、主体的に関わる経験は大切にされています。[5]

ですから、子どもの意思を尊重する考え方は、海外だけのものではありません。

一方で、家庭の日常に落とし込むと、「主体性を大切にしましょう」という言葉だけでは、何をすればよいか分からないこともあります。

そんなとき、ドイツの「どの決定に参加できるのか」という問いは、とても具体的なヒントになります。

服を選ぶ。

持ち物の順番を決める。

遊びのルールを相談する。

こうした小さな積み重ねが、子どもにとって自分の意思を使う練習になります。

8. 親子で試したい、三つの「選べる場面」

まずは 「今日の準備をどちらからする?」。

歯磨きと着替えの順番など、どちらを先にしても困らないものを選択肢にします。

次に 「遊び方を変える?」。

積み木が崩れたとき、大人が新しい方法を決めるのではなく、子どもに工夫の余地を渡します。

そして 「次の休日にしたいことを一つ教えて」。

すぐに実現できなくても、希望を聞いて、実行できる時期を一緒に考えます。

もちろん、決めるのが苦手な子どももいます。

そんなときは、大人と一緒に決めても大丈夫。

選択すること自体を、無理に強制しない。

これも忘れたくないポイントです。

親子で週末の予定を話す挿し絵
親子で週末の予定を話す挿し絵(記事内容をもとにしたイメージ)

9. 小さな「約束を守る経験」が、自分の声を育てる

例えば、週末のお出かけについて家族で話し合ったとします。

子どもは「日曜日に公園へ行きたい」と言い、大人は「晴れたら行こう」と約束しました。

そして日曜日、天気は晴れ。

でも大人が何の説明もなく別の予定に変えてしまったら、子どもはどう思うでしょう。

「言っても、どうせ変わらないんだ」

そんな気持ちになっても不思議ではありません。

ドイツの幼児教育の参加に関する議論では、子どもの意思を聞く仕組みだけでなく、合意したことをどれほど実際に尊重するかも大切にされています。[4]

もちろん、予定が変わる日はあります。

そのときは、理由を説明して、別の日を一緒に考えることができます。

自分の希望が必ず通ることと、自分の希望を真剣に受け止めてもらえることは違います。

子どもは、その違いを日々の経験から少しずつ学んでいくのでしょう。

「選んでもいいよ」の次には、「選んだことを大切に扱う」が続いている。

この順序を、大人の側でも覚えておきたいですね。

10. 「どっちでもいいよ」の代わりに

朝のクローゼット。

また、服を決める時間がやってきました。

「好きなのを選んでいいよ」

それも素敵な言葉です。

でも、今日は少しだけ変えてみる。

「外は肌寒いから、こっちとこっちならどっちがいい?」

子どもが選んだら、本当にその選択を尊重してみる。

たったそれだけのことが、子どもにとっては「自分の意見が大切にされた」という経験になるかもしれません。

子どもの自立は、すべてを自分で決めることではない。自分の声が届く経験を重ねることでもある。

ドイツとアメリカの資料から、そんな考え方を持ち帰りました。🌱

次回予告 ⏰

「あと5分!」が分からないのは、時計が読めないから?

次回はフランスの幼児教育から、時計の前に育つ「時間感覚」を考えます。

この記事の調査資料・参考文献

[1] Bundeszentrale für politische Bildung(2018年) Demokratische Partizipation von Kindern in Kindergärten. ドイツ語原文

[2] Bundeszentrum für Ernährung Partizipation beim Essen und Trinken. ドイツ語原文

[3] National Association for the Education of Young Children Principles of Child Development and Learning. 英語原文

[4] Niedersächsisches Institut für frühkindliche Bildung und Entwicklung(2025年) Partizipation und Demokratiebildung in der KiTa. ドイツ語原文

[5] 文部科学省 『平成29年改訂幼稚園教育要領・解説』 公式資料

※家族の会話は説明用の例です。アメリカの実践は州や施設によって異なります。挿し絵はイメージです。

企画・編集:株式会社フォーユアオール
本記事は公開資料をもとにした読み物です。参考資料は上記をご参照ください。