世界の子育て・教育をのぞいてみよう! 第4回|ドイツ編

朝、窓の外を見ると、しとしと雨。

「今日は公園、やめておこうか」

日本の家庭なら、そんな会話が聞こえてきそうな朝です。

でもドイツには、雨の日も、寒い日も、森の中で長い時間を過ごす幼稚園があります。

その名も、Waldkindergarten(ヴァルトキンダーガルテン)。

日本語で「森の幼稚園」と呼ばれる施設です。

「えっ、教室はないの?」

「冬は寒くない?」

「虫や転倒は大丈夫?」

疑問は次々と浮かびますよね。

調べてみると、森の幼稚園は、自然の中で好き勝手に遊ばせる場所ではありませんでした。

そこには、自由と同じくらい大切にされている、もう一つのものがあるのです。

さて、それはいったい何でしょう?

森で落ち葉を調べる子どものイメージ
森で落ち葉を調べる子どものイメージ(記事内容をもとにしたイメージ)

1. 森の幼稚園って、具体的にどんなところ?

ドイツの自然・森の幼稚園の全国団体BvNWは、森の幼稚園を特別な学校としてではなく、遊び、学び、歌い、工作もする「普通の幼稚園」と説明しています。[1]

大きな違いは、活動の場所です。

施設によって異なりますが、毎日、自然の中で数時間を過ごします。

そこには、天井の代わりに空があります。

決まった遊具の代わりに、木の根、枝、葉、石、小さな斜面。

同じ森でも、季節や天気によって景色は変わります。

そして気をつけたいのは、ドイツのすべての子どもが森の幼稚園に通っているわけではないこと。

森の幼稚園は、さまざまな幼児教育の選択肢の一つです。

2. 「何もない」が、じつはたくさんある

子どもが、一本の枝を拾いました。

最初は剣になり、次に魔法の杖になり、最後には道路の線を引く道具になる。

枝そのものは変わっていません。

変わったのは、子どもの想像です。

ドイツ森林保護団体SDWは、森には木々や石、溝、種、葉など、多様な遊び・発見・学びの素材があると紹介しています。[2]

市販のおもちゃが悪いわけではありません。

ただ、完成した使い方が決まっていない素材だからこそ、子どもは使い道を自分で考えることがあります。

「これは何に使う?」

「どうすれば橋になる?」

遊びの中で、想像、相談、試行錯誤が生まれます。

もちろん、どの子も同じ遊びをするわけではありません。その子にとって心地よいペースや関わり方はそれぞれです。

3. 転びそうな道にも、学ぶことがある?

森の地面は平らではありません。

根っこが出ていたり、落ち葉で滑りやすかったり。

大人にはちょっと心配な道でも、子どもは足元を見て歩き方を変えます。

BvNWの保護者向けQ&Aでは、森の中での移動経験が、子どもの運動能力や自分の限界を見極める力につながるという考えが紹介されています。[1]

ただし、森に行けば転倒しなくなる、けがが減る、と断言できるわけではありません。

教育団体自身も、自然には独特の危険があることを認め、行動ルールを定める必要性を説明しています。

だからこそ、「自由に遊ぶ」と「危険を放置する」は違うのです。

森の道と雨具、木の実のイラスト
森の道と雨具、木の実のイラスト(記事内容をもとにしたイメージ)

4. ここが意外! 「森の教育」は安全の準備が細かい

強い風が吹いたら?

雷が近づいたら?

冬の寒さが厳しかったら?

ドイツの森林保護団体SDWは、極端な天候のときには避難できる場所を利用することを紹介しています。[2]

地域の森の幼稚園団体も、強風、激しい寒さ、雷雨などに備えた保護施設の必要性を説明しています。[3]

BvNWの公式サイトには、保護者や運営者のための安全・衛生に関する資料が掲載されています。[4]

つまり、森の幼稚園は「雨が降っても何があっても絶対に外」という場所ではありません。

状況を見て、安全に活動する仕組みがあるのです。

虫刺されや感染症への対策、服装、移動時の安全確認なども欠かせません。

自然を尊重するなら、そのリスクにもきちんと向き合う。

ここが、大人にとって学びになる部分かもしれません。

5. 友達とつくる「見えない遊具」

森で子どもたちが、倒れた枝を何本か並べています。

「ここをおうちにしよう!」

「入口はこっちがいいよ」

「でも、こっちだと狭い!」

完成するかどうかは分かりません。

それでも、みんなで相談して、何度も作り直す時間があります。

こうした場面では、言葉で説明する力だけでなく、他の子の意見を聞くこと、役割を分けること、計画を変えることなどが必要になります。

ただし、こうした効果は森にしかないわけではありません。

室内のブロック遊びや公園遊びでも、同じような学びは起こります。

森の特徴は、素材や環境そのものが、予測できない問いを次々と届けてくれることにあるのでしょう。

6. 「自然の中で遊ぶ」と「自然を大切にする」は、同じではない

森で遊ぶ子どもを見ていると、自然が好きになりそうだなと感じます。

ただ、森に行っただけで環境を大切にする人になる、と言い切ることはできません。

自然体験の中で何を見つけ、どう関わるかが大切だからです。

例えば、木の実を拾って「全部持って帰ろう!」と言う子どもがいたら、どうするでしょう。

もちろん、拾ってよい場所やルールを確認する必要があります。

そのうえで「森の動物が食べることもあるのかな?」と話してみる。

落ち葉の下にいる小さな虫を見つけたら、住んでいる場所を壊さないようにそっと観察する。

自然を学ぶということは、自然を自分たちの遊び道具として使うだけではないのかもしれません。

ドイツ森林保護団体SDWも、自然を知ることと、自然を大切にすることを結びつけた考え方を紹介しています。[2]

見つける喜びと、傷つけずに関わる姿勢。

両方がそろってこそ、豊かな自然体験になるのでしょう。

7. 日本にも、自然の中で育てる教育がある

ここで日本に戻ってみましょう。

日本にも、園庭や公園、里山などで自然体験を重ねる幼児教育の取り組みがあります。

また文部科学省の幼稚園教育要領では、自然に触れ、その不思議さに気づいたり、身近な環境へ自分から関わったりすることが重視されています。[5]

ですから「ドイツは自然教育、日本は室内中心」とは言えません。

日本でも自然との関わりを大切にする理念があるのです。

ドイツの森の幼稚園という選択肢から学べるのは、森という施設の形だけでなく、自然の中にどんな学びの機会を見いだすかという視点ではないでしょうか。

たとえ大きな森が近くになくても、できることはありそうです。

8. 休日のお散歩が「小さな探検」に変わる

例えば、いつもの公園。

今日は、遊具ではなく地面を見てみましょう。

「昨日より落ち葉が増えているね」

「この木の実、どこから落ちたのかな?」

「雨のあと、土の色が変わったね」

大人が全部説明する必要はありません。

子どもが「これ、なに?」と言ったら、一緒に調べてみる。

分からなければ「分からないね」と言っても大丈夫。

もちろん、植物やきのこは口に入れない、危険な場所へ近づかない、虫への対策をするなど、安全が先です。

特別なアウトドア用品よりも、足を止めて発見を楽しむ時間が、最初の一歩。

そんな身近な自然体験なら、今日からでも始められそうですね。🍂

親子で木の実を観察する挿し絵
親子で木の実を観察する挿し絵(記事内容をもとにしたイメージ)

9. 雨具の準備まで、実は教育の一部かもしれない

森の幼稚園には、普通の幼稚園とは少し違う準備があります。

丈夫な長靴、寒さを調整しやすい上着、雨を防ぐ服。

ドイツの自然・森の幼稚園団体は、季節に合わせた服装や重ね着の工夫について、保護者へ具体的な情報を提供しています。[1]

ここを読むと、大人の役割の大きさにも気づきます。

子どもがのびのび活動するには、安心して過ごせる準備が欠かせません。

雨の日に濡れすぎて寒くなれば、遊びどころではなくなります。

足に合わない靴では、自由に歩くことも難しくなります。

「自然の中では自由に」という言葉の裏側に、丁寧な保育の設計があるのです。

家庭でも同じですね。

公園へ出かける前に、気温に合う服を選ぶ。

水分や着替えを持っていく。

そして、子ども自身にも「今日はどの靴が歩きやすいかな?」と考えてもらう。

遊びを支える準備も、子どもと一緒に取り組める小さな学び。

そんなふうに考えると、お出かけ前の支度も少し違って見えてきます。

10. 雨の日の見方が、ほんの少し変わった

最初の雨の日の話に戻ります。

「今日は雨だから、外では何もできないね」

そう言っていた日も、長靴を履いて、水たまりの音を聞くだけならできるかもしれません。

もちろん、雷や強風の日は外へ出ない方が安全です。

でも、穏やかな小雨の日には、晴れた日と違う発見があります。

水滴の形。濡れた葉の色。いつもより大きく聞こえる足音。

自然は、毎日同じではありません。

そして、子どもも毎日同じではありません。

学びの場所を教室だけに決めず、でも安全を軽く見ない。

ドイツの森の幼稚園は、その両方を考えるきっかけをくれました。

次回予告 🎒

小学校に入るのは6歳? それとも7歳?

次回はフィンランド、フランス、スペイン、日本を比べます。数字の差より面白い発見があるかもしれません。

この記事の調査資料・参考文献

[1] Bundesverband der Natur- und Waldkindergärten FAQs – Fragen von Eltern. ドイツ語原文

[2] Schutzgemeinschaft Deutscher Wald Waldkindergärten. ドイツ語原文

[3] Landesverband der Wald- und Naturkindergärten Baden-Württemberg Waldkindergarten. ドイツ語原文

[4] Bundesverband der Natur- und Waldkindergärten Gründen, Verein und Co. ドイツ語・安全関連資料

[5] 文部科学省 『平成29年改訂幼稚園教育要領・解説』 公式資料一覧

※森の幼稚園の活動や安全対策は施設・州・天候によって異なります。会話・挿し絵はイメージです。

企画・編集:株式会社フォーユアオール
本記事は公開資料をもとにした読み物です。参考資料は上記をご参照ください。