世界の子育て・教育をのぞいてみよう! 第2回|フランス編

お迎えに行くと、子どもは今日の出来事を元気いっぱいに話し始めます。

「今日は積み木で大きなお城を作ったの!」

「お店屋さんごっこもしたよ!」

「あとね、鬼ごっこ!」

楽しそうで、何よりです。

でも、お母さんの心の片隅に、ふと疑問が浮かぶことも。

「あれ? 今日はいったい何を勉強したんだろう?」

文字や数字を練習してほしい気持ちもある。だけど、今しかできない遊びも大切にしたい。

そんな迷いを抱えているとき、フランスの教育省が2026年3月に公開した資料を読むと、少し見方が変わるかもしれません。

そこには、幼稚園では日々、さまざまな遊びを行う必要があると明確に書かれていました。[1]

遊びは、勉強の合間のご褒美ではない。

それなら、子どもは積み木を積みながら、いったい何を学んでいるのでしょう?

積み木を自由に組み立てる幼児のイメージ
積み木を自由に組み立てる幼児のイメージ(記事内容をもとにしたイメージ)

1. フランスの「幼稚園」は、実は学校の一部

フランスでは幼児が通う学校を école maternelle(エコール・マテルネル) と呼びます。

そして、ここが少し驚きです。

フランスでは原則として3歳から教育を受けることが義務になっています。[2]

ただし、3歳から毎日机に座って長時間勉強する、という意味ではありません。

教育省の説明によれば、幼児教育は子どもの発達に合わせた、多様な学習の機会を用意する場所。問題を解いてみる、手で触って確かめる、覚える、そして遊ぶことも含まれます。[3]

「学校だから、遊びより勉強が優先」とは簡単には言えないのです。

フランスの教育資料にある表現は、Jouer et apprendre。

「遊ぶこと、そして学ぶこと」。

この二つが同じページで語られるところに、幼児期の学びの面白さがあります。

2. 教育省が分けた、4種類の「遊び」

2026年にフランス教育省の教材サイトéduscolが整理したのは、大きく4つの遊びです。[1]

ひとつ目は、探索遊び。水や砂、身近な物に触れて性質を確かめること。

ふたつ目は、象徴遊び。お医者さんごっこ、お店屋さんごっこなどの「なりきり」です。

三つ目は、構成遊び。積み木、ブロック、粘土などで何かを作ること。

そして四つ目は、ルールのある遊び。順番や約束を理解しながら、友達と遊ぶことです。

よく考えると、どれも日本の子どもたちにおなじみですね。

ところが、そこで大人が少しだけ「何が起きているかな?」と観察してみると、遊びの奥に別の景色が見えてきます。

3. 積み木のお城が崩れたとき、何が始まる?

例えば、子どもが積み木を高く積み上げたとします。

途中でぐらり。

ガシャーン!

「あーっ! 崩れちゃった!」

思わず大人は「こう置けば崩れないよ」と教えたくなります。

でも、少し見ていると、子どもは同じ積み方をしないかもしれません。

大きなブロックを下にする。左右のバランスを取る。別の形に変えてみる。

本人は「理科」や「数学」を勉強しているつもりなどないでしょう。

それでも、重さや安定、形、順序、予想と修正に触れているのです。

éduscolの構成遊びの資料には、子どもがブロックを積む時間を砂時計で区切り、次はどうすればもっと積めるかを考える活動例もあります。[4]

つまり、「ただ積んでいる」のではなく、試して、比べて、次を考える経験をしているのですね。

積み木の試行錯誤を表す挿し絵
積み木の試行錯誤を表す挿し絵(記事内容をもとにしたイメージ)

4. ごっこ遊びには、思った以上にたくさんの言葉がある

今度は、お店屋さんごっこを想像してみましょう。

「いらっしゃいませ!」

「りんごを二つください」

「ちょっと待ってくださいね」

お店の人とお客さんの役割を決め、会話し、時にはトラブルも起こります。

「私もお店の人をやりたい!」

「じゃあ、交代しようか」

その一言の中に、相手の気持ちを想像すること、交渉すること、言葉を選ぶことが詰まっています。

フランスの教育資料でも、ごっこ遊びは想像力や言葉、他者との関わりを育む活動として位置づけられています。[1]

ただし、遊べば必ず全員の言語能力が伸びる、といった単純な話ではありません。

どんな環境か、どんな支援があるか、子ども自身が何を楽しんでいるか。その条件によって体験は変わります。

そして、大人の役割も「見ているだけ」とは限りません。

5. じゃあ、先生は何をしているの?

「自由に遊ぶのが大切なら、先生は放っておけばいいの?」

ここが、今回の調査で面白かったところです。

フランスの教育実践資料には、子どもが自由に遊ぶ時間に加えて、教師がねらいを持って遊びを組み立てる時間も示されています。[5]

例えば、子どもが自然に始めた積み木遊びは、そのまま尊重する。

別の日には「三分間で高く積むには?」という小さな課題を用意する。

同じ積み木でも、大人の関わりによって違う学びが生まれます。

遊びを尊重することと、教育の専門性を発揮すること。

この二つは、対立しないのです。

むしろ、子どもにとって魅力的な遊びをどう豊かにするか。それが大人の腕の見せどころなのかもしれません。

6. もう一歩深く。「自由に遊ぶ」と「学びを支える」は両立できる?

遊びの話をすると、大人は二つの極端な考え方に揺れがちです。

「自由にさせないと、創造力が育たないのでは?」

でも一方で、

「ただ遊んでいるだけでは、何も身につかないのでは?」

実際には、この二択で考える必要はありません。

フランスの教育資料には、子どもが自分の興味から遊ぶ時間と、教師が学びのねらいを持って活動を準備する時間の両方が示されています。[5]

例えば、初日は子どもが好きなだけブロックを組み合わせる。

翌日は、みんなで「小さな動物が通れる門を作ろう」というテーマに取り組む。

さらにその次の日は、できた門を比べて、「どんな形が通りやすい?」と話し合う。

材料は同じでも、経験が少しずつ広がっていきます。

ここで大人が答えを急いで教えすぎると、子ども自身の発見の機会が減ることもあります。

反対に、難しくて手が止まったときは、材料を置き直したり、お手本を一つ示したりすることも助けになるでしょう。

自由に任せるか、教えるかではなく、「今、この子の遊びにはどんな支えが合うのか」を考える。

この視点なら、家庭でも無理なく取り入れられそうです。

7. 実は日本も、「遊び」を中心に考えている

では、日本とフランスでは、どちらが遊びを大切にしているのでしょう?

文部科学省の『幼稚園教育要領』と解説を読んでみると、日本でも幼児期の遊びが重要な学習であり、環境を通して学ぶことが基本とされています。[6]

子どもが自分から関わり、試し、発見する。

日本の幼稚園教育は、その経験を大切にしてきました。

「フランスは遊ぶ、日本は勉強する」という対比は、実際の制度を見れば成立しません。

違いを探すなら、国が示す遊びの分類、教員向けの教材、園での活動の設計など、もう一段具体的なところを見ていく必要があります。

そして今回発見したのは、対立よりもむしろ遊びを学びとして捉える共通点でした。

海外を調べて、日本の教育を再発見する。そんなこともあるのですね。🌷

8. 家で試したい、「遊びを深くする」三つの声かけ

では、家庭では何ができるでしょうか。

高価な教材や特別な設備は必要ありません。

一つ目は、答えをすぐ教えないこと。

積み木のお城が倒れたら「何が起きたんだろう?」と聞いてみる。ただし、助けを求めているときは手を貸して大丈夫です。

二つ目は、子どものアイデアを言葉にしてみること。

「ここを広くしたんだね」「昨日とは違う形だね」。評価ではなく、見たことを伝えるイメージです。

三つ目は、遊びを切り上げる前に一呼吸置くこと。

「あと5分で終わり」と見通しを伝えたり、写真に残して「続きはまた明日」にしたり。生活との折り合いも学びの一部です。

もちろん、子どもが何かに集中しているとき、わざわざ質問で中断する必要はありません。

大人の言葉は、遊びを邪魔するためでなく、必要なときに世界を広げるために使う。

そんな意識がちょうどよいのかもしれません。

親子で積み木を囲む温かな挿し絵
親子で積み木を囲む温かな挿し絵(記事内容をもとにしたイメージ)

9. 「今日も遊んだだけ」を、親子の会話で変えてみる

フランスの遊びの分類を知ってから、私は子どもへの質問も少し変えられると思いました。

「何を作ったの?」と完成品を聞くのも素敵です。

でも、ときには「どうやって作ったの?」「一番大変だったところは?」と聞いてみる。

積み木が崩れた話、お友達と役を交代した話、なかなか見つからなかった虫の話。

子どもの答えの中には、結果だけでは分からなかった発見が隠れているかもしれません。

もちろん、帰宅直後に質問攻めにする必要はありません。疲れている日は、まずは休息が大切です。

そして、一見「何もしていない」ように見える時間にも意味があることを覚えておきたいと思います。

ぼんやり空を見ている。

同じ形を何度も並べている。

昨日作ったものを、静かに眺めている。

大人は目に見える成果を探しがちですが、子どもにとっては、考えを温めている時間なのかもしれません。

学びは、いつも大きな達成や立派な作品の形で現れるとは限らない。

そう思えたら、「今日も遊んでばかり」と感じる日が、少し楽しみになりそうですね。

10. 今日の「楽しかった!」に、もう一つ質問してみよう

最初の、お迎えの場面に戻ります。

「今日は何を勉強したの?」

と聞きたいところを、ちょっと変えてみる。

「そのお城、どうやって作ったの?」

すると子どもは、目を輝かせて説明を始めるかもしれません。

「最初はね、倒れちゃったの。でもね……!」

そこには、完成したお城より面白い、子どもの小さな挑戦の物語があるはずです。

遊びは勉強の反対ではない。遊びの中に、学びが隠れていることがある。

フランスの教育資料が教えてくれたのは、そんな当たり前で、忘れがちな発見でした。

明日のお迎えでは、「何を勉強した?」に加えて、「どんなことが面白かった?」と聞いてみませんか? 😊

次回予告 🇮🇹

「なんでその色にしたの?」と聞かれて、答えに困ることはありませんか?

次回はイタリアのレッジョ・エミリアへ。子どもの考えを表す方法は、言葉だけではないのかもしれません。

この記事の調査資料・参考文献

[1] フランス教育省 éduscol(2026年3月) Jouer et apprendre au cycle 1. フランス語原文

[2] フランス教育省 L’inscription à l’école maternelle. フランス語原文

[3] フランス教育省 Programmes à l’école maternelle. フランス語原文

[4] フランス教育省 éduscol Jouer et apprendre — Les jeux de construction. フランス語資料PDF

[5] フランス・ナント教育アカデミー(2023年) La place du jeu. フランス語原文

[6] 文部科学省 『平成29年改訂幼稚園教育要領・解説』 公式資料一覧

※各家庭の会話は記事のための例です。挿し絵は実際のフランスの教育現場を撮影したものではなく、イメージです。

企画・編集:株式会社フォーユアオール
本記事は公開資料をもとにした読み物です。参考資料は上記をご参照ください。