世界の子育て・教育をのぞいてみよう! 第10回|イングランド・日本編

「今、何時?」

子どもに聞かれて、スマートフォンを見る。

「3時25分だよ」

数字を見れば、一瞬で答えが分かります。

駅の電光掲示板も、キッチン家電も、デジタル表示だらけ。

そんな時代に、ふと思いませんか?

「どうして今でも、子どもに針の時計を教えるんだろう?」

短い針、長い針、文字盤の数字。

一目で時刻が分かるデジタル表示に比べると、ずいぶん遠回りにも思えます。

ところが、イングランドの算数カリキュラムを読んでみると、アナログ時計が段階を追って何度も登場します。[1]

「昔からある道具だから」というだけではなさそうです。

では、子どもは針の時計から、何を学んでいるのでしょう?

親子でアナログ時計を指さすイメージ
親子でアナログ時計を指さすイメージ(記事内容をもとにしたイメージ)

1. イングランドでは、時計をどう教えている?

イングランドの教育省が公開する算数のナショナル・カリキュラムには、学年ごとの時間の学びが示されています。[1]

Year 1 では、「○時」「○時半」を読み、時計の針を描いて表すこと。

Year 2 では、5分刻みの時刻や「○時15分」「○時45分」に相当する表し方を学ぶこと。

そして Year 3 では、1分単位での読み取り、12時間表記と24時間表記、時間の長さの比較などへ進みます。

ただし、これらはイングランドの年次別の目安で、学校は学習段階内で進度を調整できます。また、イギリス全体ではなくイングランドの制度です。

ここで一つ気づきます。

最初から「何時何分」を全部読ませるわけではないのです。

○時から始まり、半分、5分刻み、1分刻み。

少しずつ時計の仕組みに慣れていく構成になっています。

2. 「○時半」が分かると、何が変わる?

時計の長い針が12を指したら、ちょうどの時間。

6を指したら、半分が過ぎたところ。

子どもは、針の位置を見て時間の状態を捉えます。

これはデジタル時計の「3:30」という数字とは、少し違う情報の表し方です。

丸い文字盤の中で、時間の流れを位置として見る。

まるで、時計の中に小さな地図があるようです。

もちろん、デジタルでも時間を理解することはできます。

アナログだけが特別に優れている、という話ではありません。

でも、一つの時刻を複数の方法で表せることには、学びの面白さがあります。

3. 5分刻みには、算数の秘密が隠れている

次に、長い針が1を指している時計を考えましょう。

時刻を習いたての子どもが、「1分!」と言ってしまうのも無理はありません。

文字盤には「1」と書いてありますから。

でも、分を読むときは「5分」です。

なぜでしょう?

長い針が一周すると60分。

文字盤の12の区切りを進むたびに、5分ずつ増えるからです。

5、10、15、20……。

ここには、5ずつ数える数の規則が隠れています。

そして、1周と半周、4分の1周といった、量や割合の感覚にもつながります。

イングランドの教育課程がYear 2で5分刻みを扱うのは、こうした測定や数の学びの流れの中にあります。[1]

単なる暗記ゲームではないのですね。

針の位置と5分刻みのイメージ図
針の位置と5分刻みのイメージ図(記事内容をもとにしたイメージ)

4. 「あと15分」を、目で考えられる

例えば、今は3時15分。

おやつは3時30分。

子どもに「あと何分?」と聞いてみます。

デジタルなら、数字を引き算する方法があります。

アナログなら、長い針が3から6へ動く距離を、目で追うことができます。

一つ分進むと5分。

三つ分で15分。

こんなふうに、時間の長さを図として考えられます。

もちろん、子どもの発達段階によっては、時刻と経過時間を同時に考えるのは難しいものです。

初めてのときは、実際に針を動かして見せたり、「3時から3時半まで」のような分かりやすい例から始めたりするとよさそうです。

時計を読むことと、時間の長さを計算することは、つながっていても別の学習です。

5. フランスの幼児教育を見ると、「その前」の時間も大切

前回の時間感覚の記事では、フランスの幼児教育を取り上げました。

そこでは、朝・昼・夜、先に・あとで、昨日・今日・明日といった、生活の中での時間の捉え方が大切にされています。[2]

時計の針を読む前に、時間の流れを生活に結びつける。

イングランドの段階的な時計学習と並べると、面白い連続性が見えてきます。

「あと5分」がどれくらいなのか。

「3時半になったら出かける」とはどういうことか。

そうした経験を重ねた先に、時計は意味を持つのです。

数字だけを早く読めれば、それで完成というわけではないのですね。

6. 針は二本なのに、どうしてこんなに難しい?

アナログ時計を教えていると、子どもが短い針と長い針を混同することがあります。

数字は読めるのに、時刻が分からない。

長い針が「1」を指しているから「1分」と思う。

短い針が3と4の間にあると、どちらの時間なのか迷う。

大人には当たり前でも、時計は思った以上にたくさんの約束が重なった道具なのです。

針には役割の違いがあります。

文字盤の同じ数字にも、「時」と「分」で違う意味があります。

さらに、長い針が一周する間に、短い針は少しだけ進みます。

だから最初から全部を理解してもらおうとすると、難しく感じても不思議ではありません。

イングランドの教育課程が、○時、○時半、5分刻み、1分刻みという順序で進めるのは、こうした仕組みを少しずつ捉える助けになります。[1]

家庭でも、まずは「今日は○時だけを読む日」にしていいのです。

時計の理解は、いきなり完成するものではなく、小さな約束を一つずつ結びつけていく学び。

そう思えば、教える側も少し気楽になれそうですね。

7. 日本でも、時計は暮らしと算数をつなぐ教材

日本の小学校の算数でも、時刻や時間は、生活に結びつけて学ぶ題材です。[3]

「いま何時か」だけではありません。

何時に出かけるか。

どのくらい時間がかかるか。

何時までに準備すればよいか。

時計を読む知識は、暮らしの見通しとも関係します。

だから、海外の教育を知ったうえで日本を見ると、針の時計には数字を読む以上の役割があることに気づきます。

ただし、アナログ時計を使えば必ず自立心や時間管理能力が伸びると断言できる研究結果を、今回の記事で示しているわけではありません。

道具は、あくまで子どもの学びを支える一つの方法です。

その子に合った教え方を探すことが大切ですね。

8. 教えるときは「何時何分?」から始めなくてもいい

初めての腕時計や置き時計。

いきなり「短い針は何を示す? 長い針は?」と質問すると、難しく感じる子もいるでしょう。

まずは、時計と生活を結びつけてみる。

「長い針が12になったら、おやつだよ」

「短い針が4になったら、公園へ行こうか」

次に、「3時半」のような、半分まで進む感覚を楽しむ。

それから少しずつ、5分刻み、1分刻みへ。

できれば、針を自分で動かせる時計を使って、遊びながら確かめます。

うまく答えられなくても、急ぐ必要はありません。

読める時刻が増えてきたら、子どもが自分で予定を考える機会も作ってみる。

時計を読めることをゴールにするだけでなく、時間を自分の暮らしに使ってみる。

そこに、次の楽しさがあるのだと思います。

親子でお出かけの時間を相談する挿し絵
親子でお出かけの時間を相談する挿し絵(記事内容をもとにしたイメージ)

9. 「時計を読める」と「時間を守れる」は、同じではない

ここで一つ、見落としたくないことがあります。

子どもが時刻を読めるようになったとしても、毎日予定どおりに行動できるとは限りません。

3時30分が読める。

でも、楽しい遊びを3時30分にやめるのは難しい。

その二つは、別の力が必要だからです。

だから、時計を覚え始めたばかりの子どもに、いきなり「もう自分で時間管理して」と求めなくても大丈夫。

まずは、親子で時計を一緒に見て、生活の中で使ってみる。

「おやつまであとどのくらい?」

「今日は4時に家を出ようね」

「長い針がここに来たら、準備を始めようか」

時刻を知ることと、予定を考えることを、少しずつつないでいきます。

また、目で見て分かる予定表やタイマーの方が助けになる子もいます。

大切なのは、必ずアナログ時計を使わせることではありません。

その子が自分の生活に見通しを持てる道具を、一緒に探すこと。

アナログもデジタルも、使い分ければよいのです。

10. 時計の針が教えてくれるのは、何時かだけじゃない

最初の質問に戻りましょう。

「スマホがあるのに、どうして針の時計を習うの?」

答えは、昔からあるから、だけではありません。

数字を順番に読む。

60分で一周する仕組みを知る。

半分や4分の1を、形で捉える。

予定までの長さを考える。

アナログ時計は、そんな学びを一つの丸い文字盤の中に集めてくれる道具なのです。

でも、いちばんうれしい瞬間は、計算ができたときとは限りません。

「もうすぐ、お出かけの時間だよ!」

子どもが自分で時計に気づいて、家族に教えてくれたとき。

時間を教えてもらう側から、自分で時間を見つける側になった。

その小さな変化を、一緒に喜びたいですね。⌚✨

連載のおわりに 🌍

スペインの自立、フランスの遊び、イタリアの表現、ドイツの自然、そしてさまざまな国の学び方。

世界を調べると、「海外の方が優れている」と簡単に決められないことが、むしろ面白く感じられます。

子どもの学びには、国が違っても響き合う考え方があります。

そして、教育の方法も、子どもの成長のペースも、一つではありません。

世界の教育から見つけたヒントを、それぞれの家庭に合う形で、少しずつ楽しんでいただけたらうれしいです。

この記事の調査資料・参考文献

[1] UK Department for Education National curriculum in England: mathematics programmes of study. 英語原文

[2] フランス教育省 Programmes à l’école maternelle. フランス語原文

[3] 文部科学省 『小学校学習指導要領(平成29年告示)と解説』 公式資料一覧

※ここでのイギリスの教育課程はイングランドに関するものです。家庭向けの声かけは編集上の提案であり、挿し絵はイメージです。

企画・編集:株式会社フォーユアオール
本記事は公開資料をもとにした読み物です。参考資料は上記をご参照ください。