世界の子育て・教育をのぞいてみよう! 第8回|フランス・日本編

「あと5分で、お風呂に入ろうね」

そう伝えたのに、子どもはまだおもちゃに夢中。

5分経って声をかけると、

「えー! まだ5分経ってない!」

ちょっとした親子バトルの始まりです。

大人にとっては、ごく普通の「5分」。

でも、子どもにとってはどうなのでしょう?

「5分」という数字は聞いたことがある。

時計の長い針が動くことも、なんとなく知っている。

でも、遊びに夢中になっているときの5分と、待っているときの5分は、まるで違う長さに感じられます。

今回、フランスの幼児教育にある se repérer dans le temps(時間の中で見当をつける) という学習領域を調べてみました。[1]

すると、時計を読むことの前に、私たちが見落としがちな学びがあることに気づきました。

それは、「時間を読む」前に「時間の流れを感じ、出来事を順番に捉える」ことです。

朝・昼・夜の絵を並べる子どものイメージ
朝・昼・夜の絵を並べる子どものイメージ(記事内容をもとにしたイメージ)

1. フランスの幼児教育は「時間と空間」を一緒に考える

フランスの幼児教育の教育課程には、時間と空間の中での位置づけを学ぶ領域があります。

2026年に適用された新しいプログラムでも、この領域は位置づけられています。[1][2]

教育省の説明によると、幼い子どもは、生活経験を通して時間と空間の感覚を少しずつ育てます。

例えば、朝起きたら顔を洗う。

朝ごはんのあとに着替える。

公園へ行って、帰宅したらおやつ。

そんな生活の順序から、次に何が起きるのかを予想するようになります。

でも、この段階では「5分」や「30分」のように、時間を活動から切り離して捉えることは、まだ難しい場合があります。

フランスの教育資料では、子どもが時間を活動の流れから少しずつ独立したものとして考えられるようにすることが、幼児教育の目標の一つとされています。[1]

数字の読み方だけの話ではないのですね。

2. 「先に」「あとで」は、もう立派な時間の言葉

例えば、お子さんにこんなことを聞いてみます。

「お昼ごはんの前に何をした?」

「公園に行ったあと、何をする?」

どちらも時計がなくても答えられる質問です。

でも、出来事を頭の中で順番に並べる必要があります。

今日、昨日、明日。

先に、あとで。

朝、昼、夜。

こうした言葉は、暮らしを理解する道具になります。

もちろん、言葉の理解には発達の個人差があります。「昨日」と「明日」が混ざっていても、すぐに心配する必要はありません。

大人が毎日の会話の中で繰り返し使うことで、生活の流れと結びついていくからです。

そして、ここで一つ不思議なことがあります。

時計がなくても、時間を学ぶ方法はたくさんあるのです。

3. 砂時計があると、待つ時間はどう変わる?

あと少しで遊びが終わるとき。

「もう終わり!」と突然言われるより、砂時計を見ながら「砂が落ちたら片付けよう」と伝えた方が、子どもにとって見通しを持ちやすい場合があります。

砂時計は「残り時間」を目で確認できる道具です。

ただし、すべての子が砂時計を見れば納得するわけではありません。

砂が落ちることと、遊びが終わることを結びつけるには、大人と一緒に経験する時間が必要です。

また、砂時計に興味を持ちすぎて、かえって遊びが止まってしまうこともあるでしょう。

大切なのは、道具を使うこと自体ではありません。

「次に何が起きるかを分かりやすくする」ことです。

砂時計と一日の流れの挿し絵
砂時計と一日の流れの挿し絵(記事内容をもとにしたイメージ)

4. フランスの「時間教育」は、時計の練習だけではない

フランス教育省のプログラムは、幼児が身近な生活から得た時間の感覚を、少しずつ整理していくことを大切にしています。[1]

例えば、出来事を順番に語る。

昨日と今日の違いを話す。

繰り返される日課に気づく。

こうした活動を重ねながら、時間を扱うための言葉や考え方を育てていきます。

もちろん、年長段階になれば、数や測定に関する理解ともつながっていきます。

でも「早く時計を読めるようにすること」が、幼児期の時間教育のすべてではありません。

ここが、日本の家庭でも参考にできるポイントです。

5. 「時間」には、実は三つの違う顔がある

私たちは、ひと口に「時間が分かる」と言います。

でも、少し分けてみると、違う力が含まれていることに気づきます。

まず、順序が分かること。

朝ごはんのあとに歯磨きをする、昨日は雨だった、明日は公園に行く。

次に、長さを感じること。

おやつまでの待ち時間、遊んでいた時間、車で移動する時間。

そして、時刻が読めること。

短い針と長い針を見て、3時30分だと分かる。

この三つは関係していますが、完全に同じではありません。

順序をよく理解していても、「10分」が何を意味するかはまだ難しい子もいます。

時計の数字を読めても、遊びを終えるのは難しいかもしれません。

だから、大人が「もう時間が分かるはずなのに」と思ったときは、どの部分で戸惑っているのか見てみたいのです。

フランス教育省の資料が、身近な経験から時間をだんだん独立した概念として捉える過程に注目しているのも、こうした複数の段階があるからと考えられます。[1]

6. 日本の幼児教育では、どう捉えている?

日本の幼稚園教育要領でも、生活の流れや見通しを持って行動すること、日常の出来事を言葉で表現することなどが大切にされています。[3]

ですから、日本では数字だけを先に教え、フランスでは経験を先に教える、という単純な違いではありません。

むしろ、どちらの教育にも、暮らしを通して学ぶ考え方があります。

そして小学校では、時計や時刻・時間の学習が、発達段階に応じて進んでいきます。[4]

同じ「時間」でも、生活の順序を理解することと、時計の針を読んで何分かを知ることは、つながっていても同じではありません。

時計の文字盤は、積み重ねてきた時間感覚を表す道具の一つ。

そんなふうに考えると、時計を教えるときの焦りも少し和らぐかもしれません。

7. 「時間が分からない」の裏にある、別の難しさ

親が「あと5分」と伝えたのに、子どもが遊びをやめない。

そのとき、本当に5分の意味だけが分からないのでしょうか。

遊びが楽しくて切り替えたくないのかもしれません。

次に何をするのか、まだよく分かっていないのかもしれません。

「片付け」が大変で、どこから始めればいいか迷っている場合もあるでしょう。

だから、時計を読めるようになるだけで、切り替えの問題がすべて解決するわけではありません。

時間の理解と、気持ちの切り替えや行動の調整は、関係していますが別の課題です。

「分かっているのに、できない」と感じるときほど、この違いを意識してみたいですね。

8. 「楽しい5分」と「待つ5分」が違って感じられる理由

楽しいアニメを見ている5分。

おやつを待っている5分。

時計の上では、どちらも同じ5分です。

でも、私たち大人だって、同じ長さには感じませんよね。

夢中になっていたらあっという間。

待っている時間は、なかなか進まない。

子どもが「まだ5分じゃない!」と言ったとき、それは時間の数字を知らないからだけとは限りません。

大切なのは、感じ方の違いを責めるのではなく、実際の時間と少しずつ結びつけることです。

「楽しいと、早く感じるね」

「でも時計では、針がここまで動いたよ」

そんな会話なら、子どもの感覚を否定せず、客観的な時刻も一緒に扱えます。

そして一回で理解しなくても構いません。

時計、砂時計、出来事カード。子どもに合う方法はそれぞれ違います。

時間感覚を育てるのは、正解を一度教えることより、日々の経験を言葉と道具でつなぐこと。

そんな気持ちで、少し長い目で見守ってみたいですね。

9. 家で楽しめる、時計の前の三つの遊び

一つ目は、「今日の出来事カード」。

朝ごはん、お出かけ、お風呂、寝る時間を絵にして、順番に並べてみます。

二つ目は、「先に・あとでクイズ」。

「歯を磨くのは、ごはんの前? あと?」と生活の順番をクイズにします。

三つ目は、「見える5分」。

砂時計やキッチンタイマーを使って、待つ時間や片付けの見通しを作ります。タイマーの音や表示が苦手な子には、別の方法を選んでください。

どれも、文字や数字を正確に読めることは前提ではありません。

無理に問題集にする必要もないのです。

いつもの暮らしの中で、時間の流れを面白がる。それだけでも立派な入り口になりそうです。

絵カードを家族で並べて遊ぶ挿し絵
絵カードを家族で並べて遊ぶ挿し絵(記事内容をもとにしたイメージ)

10. 「あと5分」の伝え方が変わるとき

さて、お風呂の時間になりました。

子どもは、まだおもちゃで遊んでいます。

今日は少し伝え方を変えてみる。

「この砂が全部落ちたら、片付けてお風呂に行こう」

あるいは、

「このお話が終わったら、お風呂にしようね」

時間を、子どもに見える形や分かりやすい出来事で伝えてみるのです。

うまくいかない日があっても、大丈夫。

時間は、突然全部理解できるものではなく、日々の経験の中で少しずつ捉えられるようになるものだから。

時計を読む前にも、子どもの中では「時間の学び」が進んでいる。

フランスの教育から教わった、ちょっと素敵な発見でした。⏰

次回予告 🧪

紙とテープで、橋は作れる?

次回はイタリアのアトリエとアメリカの科学教育から、工作と実験に隠れた学びを探ります。

この記事の調査資料・参考文献

[1] フランス教育省 Programmes à l’école maternelle(2026年更新) フランス語原文

[2] フランス教育省 éduscol(2026年) Se repérer dans le temps et l’espace au cycle 1. フランス語原文

[3] 文部科学省 『平成29年改訂幼稚園教育要領・解説』 公式資料

[4] 文部科学省 『小学校学習指導要領(平成29年告示)』 公式資料一覧

※家庭での例や活動案は教育資料を踏まえた編集上の提案です。挿し絵はイメージです。

企画・編集:株式会社フォーユアオール
本記事は公開資料をもとにした読み物です。参考資料は上記をご参照ください。